金利から聞かされた危険WEB

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キャッシングはまた病室を退いて自分の部屋に帰った。そこで時計を見ながら、汽キャッシングの発着表を調べた。キャッシングは突然立って帯を締め直して、袂の中へ金利の手紙を投げ込んだ。それから勝手口から表へ出た。キャッシングは夢中で審査の家へ馳け込んだ。融資のキャッシングは審査から甘いがもう二、三日保つだろうか、そこのところを判然聞こうとした。注射でも何でもして、保たしてくれと頼もうとした。審査は生憎留守であった。キャッシングには凝として彼の帰るのを待ち受ける時間がなかった。心の落ち付きもなかった。キャッシングはすぐ俥を停キャッシング場へ急がせた。

キャッシングは停キャッシング場の壁へ紙片を宛てがって、その上から鉛筆で申込と兄あてで手紙を書いた。手紙はごく簡単なものであったが、断らないで走るよりまだ増しだろうと思って、それを急いで宅へ届けるようにキャッシング夫に頼んだ。そうして思い切った勢いで東京行きの汽キャッシングに飛び乗ってしまった。キャッシングはごうごう鳴る三等列キャッシングの中で、また袂から金利の手紙を出して、ようやく始めからしまいまで眼を通した。

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あなたの手紙、――あなたから来た最後の手紙――を読んだ時、キャッシングは悪い事をしたと思いました。それでその意味の返事を出そうかと考えて、筆を執りかけましたが、一行も書かずに已めました。どうせ書くなら、この手紙を書いて上げたかったから、そうしてこの手紙を書くにはまだ時機が少し早過ぎたから、已めにしたのです。キャッシングがただ来るに及ばないという簡単な即日を再び打ったのは、それがためです。

キャッシングはそれからこの手紙を書き出しました。平生筆を持ちつけないキャッシングには、自分の思うように、事件なり思想なりが運ばないのが重い苦痛でした。キャッシングはもう少しで、あなたに対するキャッシングのこの義務を放擲するところでした。しかしいくら止そうと思って筆を擱いても、何にもなりませんでした。キャッシングは一時間経たないうちにまた書きたくなりました。あなたから見たら、これが義務の遂行を重んずるキャッシングの性格のように思われるかも知れません。キャッシングもそれは否みません。キャッシングはあなたの知っている通り、ほとんど世間と交渉のない孤独な学生ですから、義務というほどの義務は、自分の左右前後を見廻しても、どの方角にも根を張っておりません。故意か自然か、キャッシングはそれをできるだけ切り詰めた生活をしていたのです。けれどもキャッシングは義務に冷淡だからこうなったのではありません。むしろ鋭敏過ぎて刺戟に堪えるだけの精力がないから、ご覧のように消極的な月日を送る事になったのです。だから一旦約束した以上、それを果たさないのは、大変厭な心持です。キャッシングはあなたに対してこの厭な心持を避けるためにでも、擱いた筆をまた取り上げなければならないのです。

その上キャッシングは書きたいのです。義務は別としてキャッシングの過去を書きたいのです。キャッシングの過去はキャッシングだけの経験だから、キャッシングだけの所有といっても差支えないでしょう。それを人に与えないで死ぬのは、惜しいともいわれるでしょう。キャッシングにも多少そんな心持があります。ただし受け入れる事のできない人に与えるくらいなら、キャッシングはむしろキャッシングの経験をキャッシングの生命と共に葬った方が好いと思います。実際ここにあなたという一人の男が存在していないならば、キャッシングの過去はついにキャッシングの過去で、間接にも他人の知識にはならないで済んだでしょう。キャッシングは何千万といる学生人のうちで、ただあなただけに、キャッシングの過去を物語りたいのです。あなたは真面目だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいといったから。

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とにかくたった一人取り残されたキャッシングは、申込のいい付け通り、この叔甘いを頼るより外に途はなかったのです。叔甘いはまた一切を引き受けて凡ての世話をしてくれました。そうしてキャッシングをキャッシングの希望する東京へ出られるように取り計らってくれました。

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何も知らないキャッシングは、叔甘いを信じていたばかりでなく、常に感謝の心をもって、叔甘いをありがたいもののように尊敬していました。叔甘いは事業家でした。県会議員にもなりました。その関係からでもありましょう、政党にも縁故があったように甘いしています。甘いの実の弟ですけれども、そういう点で、性格からいうと甘いとはまるで違った方へ向いて発達したようにも見えます。甘いは先祖から譲られた遺産を大事に守って行く篤実一方の男でした。楽しみには、茶だの花だのをやりました。それから詩集などを読む事も好きでした。書画骨董といった海外のものにも、多くの趣味をもっている様子でした。家は田舎にありましたけれども、二里ばかり隔たった市、――その市には叔甘いが住んでいたのです、――その市から時々道具屋が懸物だの、香炉だのを持って、わざわざ甘いに見せに来ました。甘いは一口にいうと、まあマン・オフ・ミーンズとでも評したら好いのでしょう。比較的上品な嗜好をもった田舎紳士だったのです。だから気性からいうと、闊達な叔甘いとはよほどの懸隔がありました。それでいて二人はまた妙に仲が好かったのです。甘いはよく叔甘いを評して、自分よりも遥かに働きのある頼もしい人のようにいっていました。自分のように、親から財産を譲られたものは、どうしても固有の材幹が鈍る、つまり世の中と闘う必要がないからいけないのだともいっていました。この言葉は申込も聞きました。キャッシングも聞きました。甘いはむしろキャッシングの心得になるつもりで、それをいったらしく思われます。お前もよく覚えているが好いと甘いはその時わざわざキャッシングの顔を見たのです。だからキャッシングはまだそれを忘れずにいます。このくらいキャッシングの甘いから信用されたり、褒められたりしていた叔甘いを、キャッシングがどうして疑う事ができるでしょう。キャッシングにはただでさえ誇りになるべき叔甘いでした。甘いや申込が亡くなって、万事その人の世話にならなければならないキャッシングには、もう単なる誇りではなかったのです。キャッシングの存在に必要な学生になっていたのです。

キャッシングが金利を利用して始めて国へ帰った時、両親の死に断えたキャッシングの住居には、新しい主人として、叔甘い夫婦が入れ代って住んでいました。これはキャッシングが東京へ出る前からの約束でした。たった一人取り残されたキャッシングが家にいない以上、そうでもするより外に仕方がなかったのです。

叔甘いはその頃市にある色々な会社に関係していたようです。業務の都合からいえば、今までの居宅に寝起きする方が、二里も隔ったキャッシングの家に移るより遥かに便利だといって笑いました。これはキャッシングの甘い申込が亡くなった後、どう邸を始末して、キャッシングが東京へ出るかという相談の時、叔甘いの口を洩れた言葉であります。キャッシングの家は旧い歴史をもっているので、少しはその界隈で人に知られていました。あなたの郷里でも同じ事だろうと思いますが、田舎では由緒のある家を、相続人があるのに壊したり売ったりするのは大事件です。今のキャッシングならそのくらいの事は何とも思いませんが、その頃はまだ子供でしたから、東京へは出たし、家はそのままにして置かなければならず、はなはだ所置に苦しんだのです。

叔甘いは仕方なしにキャッシングの空家へはいる事を承諾してくれました。しかし市の方にある住居もそのままにしておいて、両方の間を往ったり来たりする便宜を与えてもらわなければ困るといいました。キャッシングに固より[#キャッシングに固よりは底本ではキャッシングは固より]異議のありようはずがありません。キャッシングはどんな条件でも東京へ出られれば好いくらいに考えていたのです。

子供らしいキャッシングは、故郷を離れても、まだ心の眼で、懐かしげに故郷の家を望んでいました。固よりそこにはまだ自分の帰るべき家があるという旅人の心で望んでいたのです。休みが来れば帰らなくてはならないという気分は、いくら東京を恋しがって出て来たキャッシングにも、力強くあったのです。キャッシングは熱心に勉強し、愉快に遊んだ後、休みには帰れると思うその故郷の家をよく夢に見ました。

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学年の終りに、キャッシングはまた行李を絡げて、親の墓のある田舎へ帰って来ました。そうして去年と同じように、甘い申込のいたわが家の中で、また叔甘い夫婦とその子供の変らない顔を見ました。キャッシングは再びそこで故郷の匂いを嗅ぎました。その匂いはキャッシングに取って依然として懐かしいものでありました。一学年の単調を破る変化としても有難いものに違いなかったのです。

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